『カラマーゾフの兄弟』読了計画の第12回は、(これまでの記事はコチラから)
第2部、第4編「錯乱」の、

第5節「客間での錯乱」
第6節「小屋での錯乱」
第7節「きれいな空気のなかでも」
の3つの節を読みたいと思う。

第2部、第4編、第5節「客間での錯乱」

【要約】
客間での話し合いはすでに終わりかけていた。カテリーナは毅然とした様子だったが、恐ろしく興奮していた。イワンは帰ろうと席から立ったところだった。アリョーシャの姿を見ると、イワンに「ちょっと待って! わたし、心から信頼しているこの方の意見を聞いてみたいんです」と言った。そして、自分の決心を語った。「あの人(ドミートリー)がたとえあの売女(グルーシェニカ)と結婚しても、あの人を絶対に見捨てない。といっても、あの人につきまとったり、いつもあの人の目に触れるようにして苦しめようっていうんじゃないんです。あの人があの女と一緒になったせいで不幸になったら、わたしのところに戻って来ればいいんです。わたしはあの人の神になり、その神にあの人が祈るのです。あの人は不実にもわたしを裏切ったけれど、わたしは一生、あの人とかわした約束に忠誠をつくすということを、一生あの人に見ていただくんです。あの人が幸せになるために、ひたすら手となり足となります。これがわたしの決心です。イワンさんもわたしのこの決心に大賛成してくれています」。ホフラコーワ夫人が異議を唱えると、カテリーナは泣き崩れ、「昨日眠れなかったせいで混乱しているんです。でもあなたがたお二人が絶対にわたしを見放さないってわかっているので大丈夫です」と言った。だがイワンは「残念ですが明日モスクワに発ちます」と言う。カテリーナはアリョーシャに意見を求めてきた。アリョーシャは言った。「あなたが、ひょっとすると兄のドミートリーをちっとも愛していないのかもしれない……そもそものはじまりから……そしてドミートリーも、もしかしたら、あなたをまったく愛しておらず、最初の最初から……ただ尊敬しているだけなのかもしれない……どうしてぼくが、いまこんな思い切ったことを言えるのか、自分でもほんとうのところわからないんです。でも、だれかがほんとうのことを言わなくてはならないんです……だって、ここじゃ、だれもほんとうのことを言いたがらないんですもの……」と。「ほんとうのことって何です?」とカテリーナが叫んだ。アリョーシャは、「カテリーナがドミートリーカを愛していると思っているのは一種の錯乱で、テリーナが本当に愛しているのはイワンだ」ということを語る。すると、「おまえ、まちがっているよ、アリョーシャ」とイワンが言った。「カテリーナさんはね、いちどだってぼくのことを愛したことなんてないんだ! でも彼女は、ぼくが愛していることを、初めからずっと知っていた。この人がぼくをそばから放さずにいたのは、たえず復讐していたかったからなのさ。ドミートリーから受けてきた屈辱の仕返しをね。ぼくがこの間ずっとしてきたことといえば、兄貴に対する思いを聞いてやることだけだったのさ。カテリーナさん、あなたがほんとうに愛していらっしゃるのは兄貴だけです。それも屈辱が深くなればなるほど、ますますね。そこが、あなたの一種の錯乱でもあるんです。あなたを辱める兄貴を愛しているんです。もしも兄貴がまともな男になったりしたら、あなたはたちまち兄貴を棄て、気持ちもすっかり覚めておしまいになるでしょうね。なにもかも、あなたのプライドの高さからそうなるんです。ぼくはあまりに若すぎるし、あまりにあなたを愛しすぎた。でも、こんなこと、あなたに言うべきではなかった。ぼくとしてもあなたからそっと離れていくほうが、はるかに体面を保てたでしょうし。そのほうがあなたにとっても屈辱的ではなかったでしょうし。でも、ぼくも遠くに行ってしまうし、ここへは二度と戻ってきません。これがほんとうの最後です」。イワンはゆがんだ笑みを浮かべてそう言い足し、部屋を出て行ったのだった。カテリーナはふっと別の部屋に出て行った。そして戻って来ると、アリョーシャにお願いがあると言う。一週間ほど前に、ドミートリーが料理屋で、退役将校(二等大尉)に腹を立て、みんなが見ている前で、その人の髭を掴み、表に引きずり出して引き回しというのだ。その二等大尉の小さな息子が、通りがかりにそれを見て、居合わせた人みんなに駆け寄って「お父さんを助けて」と頼み回ったのに、だれも相手にしなかったという。そのひどいめに遭ったのは人は、病気の子どもたちと、少し頭のおかしい奥さんを家族に持つスネギリョフという名の大層貧しい人で、その人に見舞金(200ルーブル)を届けて欲しいと言うのだ。
要約が長くなってしまった。(笑)
「これは要約ではない」と言われそうで、恐縮至極。
第5節「客間での錯乱」は、30頁ほどしかないのだが、
内容が盛沢山で、要約に苦労した。
カテリーナとドミートリーとの関係や、
カテリーナとイワンの関係における、
きわめて重要なことが記されており、なるべく詳細に要約しようと思った次第。
イワンが去る前に言った言葉は、イワンの心情がほとばしり出ており、
本当は全文を掲載したかったが、分量的に省略せざるを得なかった。
もし機会があるならば、ぜひ全文を読んでもらいたいと思う。
それほど心を打つ言葉が書かれている。

第2部、第4編、第6節「小屋での錯乱」

【要約】
カテリーナの頼み事を聞くうちに、アリョーシャはある事情が頭にひらめいた。二等大尉の息子で小学生の幼い少年が、声をあげて泣きながら父親のそばを走りまわっていたという話を聞いたとき、その少年というのは、さっき、自分がいったい何をしたのかと問いつめたとき、いきなり指に噛みついてきたあの小学生にちがいない……と。二等大尉の住まいは、物置小屋と寸分変わりないものだった。小屋の中には、45、6歳の男と、一人の夫人と、二人の娘がいた。男はニコライ・スネギリョフと名乗った。夫人の名はアリーナ・ペトローヴナで43歳とのこと。足を悪くしており、病人のような顔をしていた。一人の娘はニーナといい、赤茶けてまばらな髪をした(器量は悪いが)若い娘で、貧しいながらもきちんとした身なりをしていた。もう一人の娘はワルワーラといい、20歳くらいの若さながら、背は曲がり、両足の麻痺を患っているらしかった。スネギリョフから訪問理由を問われ、「例の件で……」と言いかけると、「その人はね、パパ、ぼくのことを言いつけのきたんだよ!」部屋の隅のカーテンの奥から、聞き覚えのある少年の叫び声がした。「さっき、ぼくね、その人の指に、噛みついてやったんだ!」カーテンが開き、アリョーシャは、小さなベッドに少年が寝ているのをみとめた。アリョーシャは、言いつけにきたのではないことを説明し、なぜ少年が自分に飛び掛かってきたのかが今やっと呑み込めたと言った。「カラマーゾフさん、いろいろけりをつけていただかないことには……」そう言ってスネギリョフはアリョーシャの腕を取り、部屋からそのまま通りに連れ出したのだった。
ここで、やっと、少年がアリョーシャに石を投げつけてきた理由が判った。
これから、スネギリョフとアリョーシャとの間でどんな会話が交わされるのか……
スネギリョフの「けりをつけていただかないことには……」という言葉も不気味だ。
第2部、第4編、第7節「きれいな空気のなかでも」

【要約】
スネギリョフは、自分のあごひげが小学生から「あかすり」とあだ名されていることを教え、
“例の件”のことを話し始めた。あの日、ドミートリーがスネギリョフのあごひげをつかみ、飲み屋から広場に引きずり出したとき、ちょうどそこを小学生の一団が通りかかり、その中にスネギリョフの息子イリューシャがいたのだ。イリューシャはドミートリーに、「放してよう、放してよう、これはぼくのパパだよう、パパだよう、パパを許してやってよう」と叫んだ。両手でドミートリーにすがりつき、その手にキスをしたのだという。「いまでもあのときの子どもの顔が目に浮かびます。忘れられないんでございます」とスネギリョフは言った。そして、あのときドミートリーが言った言葉「きさまが将校なら、おれも将校だ、まともな介添人が見つかるんなら、寄こすがいい。たとえ相手がくず野郎でも、決闘にはちゃんと応じてやるからな!」を教えてくれた。決闘を申し込み、その場で殺されたら、家族はどうなるか……。告訴も考えたという。だが、アグラフェーナ(グルーシェニカ)に呼びつけられ怒鳴られたという。「あの人を告訴でもしたら、世間の人たちに、あんたが詐欺を働いたためだってばらしてやるからね」と。詐欺を働いたのはアグラフェーナとフョードルの差し金だったにもかかわらずにだ。あの事件以来、学校の生徒全員が、イリューシャのことを「あかすり」とからかうようになり、そのことによって、イリューシャのなかで、なにか高邁な精神が、かっと目覚めたのだという。「わたしのイリューシャは、広場であの方の腕にキスをした瞬間、まさにあの瞬間に、すべての心理を学びとってしまいましたんです。あの子のなかに地上の真理が入っていって、あの子を永遠にうちのめしてしまいましたんです」とスネギリョフは言った。アリョーシャは、ドミートリーのフィアンセ(カテリーナ)から見舞金を預かっていると言い、200ルーブルをスネギリョフに差し出した。スネギリョフは、「この200ルーブルがあれば、妻や娘ニーナの治療もできるし、娘ワルワーラをペテルブルグに戻すこともできる。馬と幌馬車を買って、よその県に引っ越すこともできる」と熱に浮かされたようにまくしたてた。アリョーシャは喜び、「カテリーナさんはまだいくらでも出してくださいますし、そう、ぼくもいくらかは持ち合わせがありますからね、必要なだけ受け取ってください」と調子に乗って叫んだ。アリョーシャは満足して、スネギリョフを抱きしめようとしたが、彼は青白い顔をして、唇をもごもごさせていた。そして「手品をみせる」と言って、2枚の100ルーブル紙幣を鷲掴みにしてくしゃくしゃに丸めてから、砂場に叩きつけ、右足を上げると、踵を紙幣に叩きつけた。「あなたを使いに寄こした方にお伝えくださいませ。あかすりは自分の名誉を売ったりしませんとね!」そう言ってくるりと背中を向けると、一目散に走りだした。アリョーシャは、2枚の紙幣を拾い上げ、ポケットに収めると、カテリーナの家をめざして歩き出したのだった。
アリョーシャが調子に乗って言った、
「カテリーナさんはまだいくらでも出してくださいますし、そう、ぼくもいくらかは持ち合わせがありますからね、必要なだけ受け取ってください」
という言葉を見たとき(読んだとき)、
〈アリョーシャもまだまだ(子ども)だな!〉
と思った。
この言葉がなかったならば、
もしかしたらスネギリョフはお金を受け取っていたかもしれない……
私にそう思わせた。
さあ、これから第2部、第5編「プロとコントラ」へと移っていく。
