『カラマーゾフの兄弟』読了計画の第8回は、(これまでの記事はコチラから)
第1部、第3編「女好きな男ども」の、

第3節、第4節、第5節。
「熱い心の告白̶̶詩」(第3節)
「熱い心の告白̶̶一口話の形で」(第4節)
「熱い心の告白̶̶『まっさかさま』」(第5節)
と、ドミートリーの「熱い心の告白」が続く。


第1部、第3編、第3節「熱い心の告白̶̶詩」

【要約】
修道院を出る馬車の中から父が叫んだ言いつけを聞いたアリョーシャは、父親が何をしでかしたかを知ったが、「引っ越して来い」という命令が、つい調子にのった過剰な演技であることは分かっていた。アリョーシャの心の中でざわついていたのは、そんな父のことではなく、ホフラコーワ夫人から手渡された書きつけに関することだった。ぜひ立ち寄ってほしいと強く懇願しているカテリーナへの恐怖だった。カテリーナの姿は、美しくプライドの高い、威圧的な娘として記憶に残っていた。彼はようやく腹を決め、その恐ろしいカテリーナの家の方へ歩き出した。彼は裏道をつたって近道して行こうとしたが、その道は実家のすぐ脇を通っていかなくてはならなかった。隣家の庭までやってきた所で、アリョーシャは兄のドミートリーと偶然会った。ドミートリーは、屋敷から離れたあずまやに弟を連れていき、「おれはもう何もかも話しちまう覚悟でいる。天国の天使にはもう話したが、地上の天使のおまえにも話し、ちゃんと話を聴いてもらって、許してほしいんだ。おれに必要なのは、誰か高みにいる人間に許してもらうことなんだ」と言った。そして詩を謳いあげながら、自分は恥辱にまみれていると卑下した後、おれは虫けらだと涙した。「虫けらには好色を!」と詩の一節を叫び、「おれたちカラマーゾフ家の全員が、実は虫けらだったんだ。だから天使みたいなおまえの中にもこの虫けらが住みついていて、おまえの血の中に嵐を引き起こすのだ」と言った。
光文社文庫の第1巻の巻末に「読書ガイド」があり、
そこに第1部、第3編、第3節「熱い心の告白̶̶詩」で採り上げられた詩の解説がある。
この詩は、ドイツ古典主義詩人フリードリヒ・フォン・シラーのものであった。
以前、第1部、第2編、第6節のところで、フョードルがゾシマ長老に、
(シラーの『群盗』の登場人物に例えて)息子たちを紹介する描写があった。
このときにシラーについて少し紹介しているが、(コチラを参照)
シラーは、青春時代のドストエフスキーが、どの作家にもまして熱中した作家であり、
彼の精神形成に重大な役割を果たしている。
「熱い心の告白̶̶詩」でドミートリーがアリョーシャに聞かせる「裸の人慣れない穴居の民は……」と、それに続く一連の詩は、シラーの「エレウシースの祭」からの引用である。

第1部、第3編、第4節「熱い心の告白̶̶一口話の形で」

【要約】
「向こうじゃ、ずいぶん遊びまくったものさ。金なんて単なるアクセサリーだし、魂の湯気だし、小道具にすぎない。おれは女遊びが好きだし、残酷なことも好きだ」ドミートリーは、これまで女たちにしてきた残酷な行いを告白し、自分のことを「ただの残酷な虫けらだ」と表現する。ドミートリーの告白を聴いて、アリョーシャも、「ぼくも兄さんとまったく同じです」と告白する。「おまえが同じ? おいおい、それはちょっと言い過ぎだよ」と言う兄に、アリョーシャは、「いいえ、言い過ぎではありません。すべては同じ階段なんです。ぼくはそのいちばん低いところにいて、兄さんはもっと上の、十三段目あたりにいる。どっちみち同じことなんです。まったく同類なんです。低い段に足をかければ、いずれかならず上の段にも足をかけることになるんですから」と言った。その後、ドミートリーは、カテリーナと出会ったいきさつを話す。ドミートリーが砲兵大隊にいた頃、彼を毛嫌いしていた中佐がいたのだが、中佐は二度結婚したのだが、二度とも死に別れしており、先妻には娘を一人残し、その娘はアガーフィア・イワーノヴナといって、性格のいい女だった。中佐は町の名士で、豪勢な生活をしていたのだが、その中佐の次女で、ペテルブルグの貴族女学校を出たばかりの、とびきりの美人がやってくるという噂が立った。この次女というのが、中佐の二度目の妻の子ども、カテリーナ・イワーノヴナだったのだ。初めてカテリーナに話しかけたとき、見下されたような目をされ、相手にされなかったことを逆恨みしたドミートリーは、仕返しすることを誓う。反対派の仕組んだ罠で、中佐が公金横領の罪を着せられ、4500ルーブルの返還を求められたとき、ドミートリーは中佐の長女アガーフィアに会い、「あなたの妹(つまりカテリーナ)をぼくのところへ寄こせば金を貸してあげる」と持ちかける。ドミートリーには父親から送られてきた6000ルーブルが手元にあったのだ。やってきたカテリーナに額面5000ルーブルの(無記名の)債券を渡すと、カテリーナは一言も口をきかず、深く静かに体を屈めると、ドミートリーの足元にひざまずき、床に額をつけてお辞儀した。カテリーナが立ち去った後、ドミートリーは軍刀で自殺しようと思った。それほど有頂天だったのだ。「おまえにわかるか。ある種、感動の極みでも人は自殺できるってことが。だがおれは死ななかった。そのかわり軍刀にキスをして、元の鞘に収めた(中略)カテリーナとおれのあいだで起こった『事件』というのは、まあこういったところだ」。
ここで告白されるドミートリーの打ち明け話は、
かなり衝撃的だし、男と女の物語としても面白い。
150年近く前に書かれた小説とは思えないほどリアルだ。

第1部、第3編、第5節「熱い心の告白̶̶『まっさかさま』」

【要約】
「これで事件の前半はわかりました」とアリョーシャは言った。「後半は悲劇で、これはこれからここで起こる」とドミートリーは意味深なことを言った。中佐は公金の返還をすませると、急に病気になり、3週間ばかり寝込んでから脳軟化症を起こして亡くなった。カテリーナ、姉、叔母の3人は、父親の葬儀が住むと5日ほどしてモスクワに発った。出発の直前、ドミートリーは封書を受け取った。そこには「手紙を書きます、お待ちください。K」とだけ記されていた。モスクワに行くと、カテリーナには電撃的とも言える出来事が待っていた。彼女にとって大事な親戚の将軍夫人の(一番近い相続人だった)二人の姪が相次いで(天然痘で)亡くなり、呆然自失の未亡人はカテリーナが戻って来たのを喜び、彼女のために遺言状を作りかえ、さしあたりは直接8万ルーブルを(好きに使ってイイ)持参金だと言って渡したのだ。カテリーナは、その持参金の中から4500ルーブルをドミートリーに郵送し、追って送った手紙にこう書いた。「あなたを死ぬほど愛しています。あなたがわたしを愛してくださらなくてもかまいません。ただ、わたしの夫になってください。驚かないでください。あなたを縛るようなことはいっさいしません。あなたの家具になります。あなたが歩きまわる絨毯でもいいです……あなたを永遠に愛したい、あなたをあなたから救ってあげたい……」。このようにカテリーナの方から結婚を申し込んできたのだ。カテリーナがドミートリーに恩義を感じ、自分の人生と運命を無理やり変えて、ドミートリーに結婚を申し込んできた……と思ったドミートリーは、モスクワにいるイワンに手紙を書いてすべてを打ち明け、イワンにカテリーナの所に行ってもらった。すると、イワンはカテリーナを好きになってしまい、それが現在まで続いている。「彼女がどんなにイワンを敬い、尊敬しているか? おれたち二人をくらべ、彼女がこんなおれみたいな男を愛せるっていうのか」とドミートリーが言うと、アリョーシャは、「でもぼくは、あの人が愛しているのは兄さんのような人で、イワンのような人じゃないと思います」と言った。ドミートリーは、「彼女が愛しているのは自分の善行なんで、おれなんかじゃない」と言って認めようとしない。そしてアリョーシャに、カテリーナの所へ行って「おれはもう二度とあなたの家には行かないので、どうぞよろしく」と言ってきてくれと頼む。ドミートリーはカテリーナから(姉のアガーフィアに送金して欲しいと)預かった3000ルーブルを既に使い込んでいたので、その3000ルーブルを父親フョードルに借りに行って、その3000ルーブルを持ってカテリーナの所へ行ってほしいと頼む。「お父さんは絶対にくれませんよ」とアリョーシャは言うが、「やつはおふくろの2万8000ルーブルを元手に10万ルーブルの金を作ったのだから、2万8000のうちせめて3000ぐらいはこのおれによこしてもよさそうなもんじゃないか」「あいつが父親になる最後のチャンスを与えてやるんだ」と言った。アリョーシャは悲しげな様子で父の家に向かったのだった。
すごい展開に、ただただ驚くばかり。(笑)
要約で、すべての内容を書くことはでいないが(上手く要約できもしないが)、
本文には登場人物の心理状態が細かに書き込まれているので、
本文の方が100倍面白い。
