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映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』……檀ふみ、小林涼子の感情表現が素晴らしい……

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俳優・水谷豊の映画監督としてのデビュー作は、
2年前に公開された『TAP THE LAST SHOW』(2017年6月17日公開)であった。


当時、佐賀県では上映館がなく、
福岡にある中洲大洋まで見に行った。
水谷豊の記念すべき監督デビュー作なので、
〈見ておかなくては……〉
と思ったからだ。
そして、
……水谷豊監督の思いがたくさん詰まった佳作……
とサブタイトルを付け、レビューを書いた。

監督デビュー作にしては、なかなかの作品であった。
面白かったし、エンターテインメント作品として成り立っていると思った。
題材は、すでに手垢の付いたベタな内容であるし、新鮮さはない。
水谷豊、岸部一徳、北乃きい、六平直政、前田美波里など、
著名な俳優は出演しているものの、
主要なタップダンサーたちは、皆、無名で、
俳優を専門としていないので、演技はイマイチ。
だから、
それぞれに苦悩を抱えた若者たちの人生を描いた部分は弱い。
にもかかわらず、見る者の心を動かす作品に仕上がっているのは、
やはり水谷豊監督の作品への思いがたくさん詰まっているからであろうと思った。
ステッキが折れてしまうほどの常軌を逸した猛特訓は、
映画『セッション』を思わせる。
気迫に満ちた若きダンサーたちのタップは、
映画『ラ・ラ・ランド』のようだ。
両作品を監督したデミアン・チャゼルの影響も少しはあるのかもしれない。
(中略)
ベタな内容、
ベタなセリフ、
ベタな演出ではあるが、
この映画には、観客を楽しませようとする“熱”を感じるし、
それが、私にも好印象を与えた。
水谷豊の初監督作品としては、「成功した」と言えるのではないかと思う。
こういう「思いが詰まった」作品は、何度も撮れるものではないが、
あえて「次作にも期待」と言っておきたい。
(全文はコチラから)

このとき、「次作にも期待」と書いたが、
早くも水谷豊の監督第2作目が公開された。
それが、本日紹介する『轢き逃げ 最高の最悪な日』である。



ある地方都市で起きた交通事故。
一人の女性が命を落とし、轢き逃げ事件へと変わる。
車を運転していた青年・宗方秀一(中山麻聖)、
助手席に乗っていた親友・森田輝(石田法嗣)。
二人は秀一の結婚式の打合せに急いでいた。


婚約者は大手ゼネコン副社長の娘・白河早苗(小林涼子)。


打ち合わせを終えて帰宅した秀一と輝は、
夕方のTVニュースで、轢き逃げした女性・時山望(さな)の死亡を知る。
翌朝、怯えながら出社した二人には、反目する専務一派のいつもの嫌みに構う余裕もない。


何者かからの脅迫を受けるも、
秀一の結婚式は無事に終わる。


秀一が人生最高の日を迎えていた時、
轢き逃げ事件で突然一人娘の望を失った時山光央(水谷豊)・千鶴子(檀ふみ)夫妻は、
最悪の日々を過ごしていた。


この事件を担当するベテラン刑事・柳公三郎(岸部一徳)と、
新米刑事・前田俊(毎熊克哉)は、


監視カメラから秀一の車を割り出し、
秀一と早苗がデートしているときに任意同行を求める。




取り調べで自白した秀一は、
助手席に乗っていた輝と共に逮捕される。
「轢き逃げ犯逮捕」という知らせを受けた時山夫妻であったが、
娘が帰ってくるわけではない。
なんとか日常を取り戻そうと耐える両親は、
望の遺品返却に訪れた刑事から、意外な質問を受ける。
「遺品の中に携帯電話が見当たらなかったんですが……」と。


娘の部屋を探したが携帯は見つからず、
引き出しにあった日記から、事件当日の望の行動が明らかになる。


微かな違和感を抱いた時山は、娘の仕事仲間や友人に会いに出かけていく。
そして、様々な証言を得て、
予想だにしなかった真相に辿り着くのだった……



“轢き逃げ”を題材にしているので、
社会派の、ちょっと小難しい映画を予想していたのだが、
ミステリー風のエンターテインメント色の強い作品であったので、
最後まで面白く楽しんで見ることができた。
監督デビュー作『TAP THE LAST SHOW』の脚本は両沢和幸であったが、
本作『轢き逃げ 最高の最悪な日』は、水谷豊による完全オリジナル脚本。

60代で映画を3本撮りたい思いがあり、2本目はどうしようとプロデューサーたちと話した時に、「水谷さんが考えるサスペンスが見たい」と言われ、2日後にアイデアが出てきて、「文字で書いていく」と言ったのがはじまり。脚本を頼まれてもいないし、僕が書くとも言っていない。

と語る水谷豊だが、
「相棒」シリーズなどでの経験が活かされたのだろう、
観客をグイグイと引っ張っていくような構成は「さすがだな」と思わせた。
ただ、先ほど、ストーリー紹介で、
「予想だにしなかった真相に辿り着くのだった……」
と書いたが、
私は、序盤で、結末を予想することができた。
そういう意味では(良い意味でも、悪い意味でも)、TVドラマ的と言えるかもしれない。
映画では、結末を見る者に委ねるなど、難解な作品もあるが、
TVドラマでは、何よりも判りやすさが求められる。
本作では、序盤で、あまりにもヒントを与え過ぎているように感じた。


水谷豊監督作品の良い点は、
無名に近い俳優をオーディションなどで選出し、
重要な役を与えていること。


監督デビュー作『TAP THE LAST SHOW』もそうであったが、
本作でも、中山麻聖、石田法嗣、小林涼子など、
将来性のある俳優を起用し、作品に新鮮味を出している。


ベテラン俳優ばかりだと、作品は安定するが、
新鮮味に乏しく、魅力のない作品になる場合が多い。
水谷豊監督作品は、無名に近い俳優と、有名なベテラン俳優とを上手に組み合わせ、
その化学反応を楽しんでいるように感じた。


「鑑賞する映画は出演している女優で決める」主義の私としては、
本作では、檀ふみと、小林涼子に期待していたのだが、
それは「期待以上」であった。


時山光央(水谷豊)の妻・千鶴子を演じた檀ふみ。


轢き逃げされ死亡した女性の母親の役であったが、
夫が呆然自失の状態でも、気丈にふるまい、
一見、強い女性に見えるのだが、
当然のごとく、いろいろな感情を抱えており、
その微妙な感情の揺れを、大袈裟ではなく、繊細に演じていて感心させられた。


表面は平気そうに装っていたのだが、


ラスト近くに、堪え切れずに慟哭するシーンがある。
このシーンだけでも、最優秀助演女優賞候補の資格があると思った。



宗方秀一の婚約者(のちに結婚)で、
大手ゼネコン副社長の娘・白河早苗を演じた小林涼子。


結婚式を控えた女性としての歓び、
新婚の夫が逮捕されたことによる驚きと悲しみ、
死亡した女性と、その遺族へのお詫びの気持ち、
将来への不安……など、
様々な感情表現を要求される役だったので、
本当に難しかったと思う。


役柄もあろうが、小林涼子自身の真面目さ、
人生と真摯に向き合う姿勢なども感じられ、
小林涼子という女優に、とても好感を抱いた(抱かされた)。
今後も注目していたい女優のひとりである。



女優陣だけでなく、
宗方秀一を演じた中山麻聖、


森田輝を演じた石田法嗣、


ベテラン刑事・柳公三郎を演じた岸部一徳、


新米刑事・前田俊を演じた毎熊克哉など、


男優陣も真摯な演技が光っていた。



主題歌は手嶌葵の「こころをこめて」。


劇中に一度、そしてエンドロールに流れるが、
物語の哀切さと相俟って、手嶌葵の声が心に沁みてくる。
予告編でも流れるので、ぜひぜひ。


水谷豊監督は、1952年7月14日生まれなので、現在66歳。(2019年5月現在)
「60代で映画を3本撮りたい」
と宣言しているので、
次の作品もすでに構想していることだろう。
どんな作品になるのか、期待して待ちたいと思う。


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