『雪の華』というタイトルから判るように、
中島美嘉の代表曲の一つ「雪の華」からインスパイアされた作品である。
監督は、橋本光二郎。
脚本は、岡田惠和。
主演は、登坂広臣と、中条あやみ。
高岡早紀、浜野謙太、田辺誠一らが共演している。
この映画を見たいと思った理由は、3つ。
①中条あやみが主演していること。
『セトウツミ』(2016年)
『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』(2017年)
での彼女の印象がすこぶる良かったので、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
中条あやみの主演作ならば見たいと思った。
②脚本が、岡田惠和であること。
ここ数年で、私が最も泣いた映画は、
彼が脚本を担当した『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017年、監督:瀬々敬久)であった。
TVドラマの代表作である『白鳥麗子でございます!』『イグアナの娘』『若者のすべて』『ビーチボーイズ』『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』などを持ち出すまでもなく、
実力は折り紙つきで、彼の脚本ならば間違いないと思った。
③監督が、橋本光二郎であること。
助監督として多くの作品に携わっており、
監督作としては、
『orange』(2015年)
『羊と鋼の森』(2018年)
しかないが、(タイトルをクリックするとレビューが読めます)
2作とも実に丁寧に撮られており、橋本光二郎には好感を抱いていた。
彼が監督した作品ならば、見るべき作品になっていると思った。
中島美嘉の「雪の華」は元々好きな曲であったし、
フィンランドでもロケを行っていると聞いていたので、
鑑賞するのを楽しみにしていた。
ワクワクしながら映画館へ駆けつけたのだった。

幼少期から病気を抱え、余命1年を宣告されてしまった平井美雪(中条あやみ)には、
両親が出会ったフィンランドの地でオーロラを見ることと、
人生で初めての恋をすることという、2つの夢があった。

ある日、ひったくりにあった美雪は、
ガラス工芸家を目指す青年・綿引悠輔(登坂広臣)に助けられる。

半年後に偶然再会した悠輔が、
両親を亡くし、男手ひとつで兄弟を育てていること、
そして彼の働く店が危機に陥っていると知った美雪は、
「私が出します、100万円。その代わり1 ヶ月、私の恋人になってください」
と、期間限定の恋を持ちかける。

美雪が押し切って付き合い始めた2人だったが、
初めての待ち合わせ、

一緒に食べるお弁当、

別れ際のお見送り、

おやすみのメール、
……そのすべてが幸せで、
期限付きの恋と知りながら、美雪は自分の居場所がある喜びを感じていた。

そして、初めは乗り気でなかった悠輔も、
まっすぐな彼女に次第に惹かれていく。
かけがえのない出会いが、
美雪に一生分の勇気を与えて、
悠輔の人生を鮮やかに彩っていくのだった……

「『雪の華』の歌詞のどこからイメージを膨らまされましたか?」
という問いに、脚本を担当した岡田惠和は、次のように答えている。
ハッピーエンドなのか別れたのか、聴く人によっていかようにもとれる歌詞です。幸せなワードが並んでいて、ある意味力強いのですが、それが哀愁を帯びたメロディにのると、何かあると思わせる不思議な効果をかもし出します。「雪」という単語も、喪失感を象徴していますしね。「もし、キミを失ったとしたなら」という切ないフレーズもあり、ハッピーなだけの物語では、この歌のありように合わない。悩んだ結果、始まった瞬間から終わりが来ることが決まっている“期限付きの恋愛”に行き着きました。
この“期限付きの恋愛”を、岡田惠和は、
どちらかと言うと、大人のメルヘン的なものに設定している。
雪は美しいけれども、いつかは儚く消えてしまうものだ。
その儚く消えてしまう雪のような“期限付きの恋愛”の中に、
雪の華として中条あやみを中心に置き、
物語を組み立てているのだ。

このところ余命モノの映画がブームで、
本作も余命1年を宣告されてしまった女性を主人公にしていたので、
ものすごく泣かせる映画かなと思っていたが、
それほど“泣かせ”を狙った作品ではなかった。
大体、中条あやみの方から、100万円の援助と引き換えに、
「1 ヶ月だけ恋人になってほしい」
と持ち掛けてくるなど、絶対ありえない。(笑)
でも、絶対にありえないと言ってしまったら、映画は楽しめないのだ。
すごくシンプルに言うと、諦めないで勇気を振り絞れば、きっと何かが起きるという物語です。観た方が自分の可能性を信じられる映画になったらいいなと願っています。こんな出会いが現実にもあるかもしれないと思うだけで、幸せな気持ちになれる。それがフィクションの力であり、ドリームを届ける映画の役割だと思っています。あとはやはりラブストーリーですので、悠輔と美雪に思いっきり感情移入して、ハラハラしながら2人の恋の行方を見守っていただけたら、うれしいですね。
と、岡田惠和が語るように、
この大人のメルヘンにどっぷりと浸かって、楽しむことこそが、
映画を楽しむコツと言えるかもしれない。

脚本と同じくらいに褒めたいのは、
橋本光二郎監督の丁寧な映画作り。
まだ、長編監督作としては、
『orange』(2015年)
『羊と鋼の森』(2018年)
の2作しかないが、
いずれも、丁寧に丁寧に作られた作品であった。
橋本光二郎監督は語る。
「雪の華」という楽曲は、非常に物悲しいなと思っていたのですが、それに対する脚本家の岡田さんの答えが、悲しさを全面に押し出すストーリーではなく、前半はむしろほのぼのとした世界観で展開します。切なさの全面押しで来るよねと皆が思っているところに1回ひねって、それでいて後半は2人の気持ちが徐々に重なっていって、切なさが生まれていく。熟練の技というか、さすがだなと思いました。
本作『雪の華』も、丁寧に撮ることで、
岡田惠和が描きたかったものを巧く表現していく。
しっかりした構図で、細部にまで目が行き届いており、
おろそかにしているシーンがまったく見当たらなかった。
まだ3作を見ただけだが、
私が“光の魔術師”と呼んでいる三木孝浩監督のように、
ハズレのない監督になっていくような気がした。

“雪の華”である平井美雪を演じた中条あやみはどうだったか?

正直、演技力はまだまだである。
だが、役柄が、
幼少の頃から病気を抱えていたので、世慣れしておらず、世間から少しズレた子供っぽい女性ということに設定してあったので、その子供っぽい仕草や表情は秀逸であった。

恋はもちろん、様々なことを諦めてきている女性なので、
普通その年齢ならば体験していることが何も出来ていない。
誰もがやってきたことを、ひとつひとつ実現して、感激している様子が、
可愛かったし、誰もが共感できる部分であったと思う。


そして、終盤、フィンランドで、
中条あやみは、それまで見せたことのない表情を浮かべる。
ラストシーンの美しさは、この映画の一番の見せ所であろう。

エンドロールにもワンシーンが組み込まれているし、
中島美嘉の歌声も流れるので、
場内が明るくなるまで席を立たないようにね。
美しいストーリー、

美しい中条あやみ、

美しいフィンランドの風景、

美しいオーロラ、

そして、全編を彩る、葉加瀬太郎のヴァイオリンの美しい音色。

……こんな世界に浸ってみるのも悪くない。