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Channel: 一日の王
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映画『体操しようよ』 ……木村文乃と和久井映見に逢いたくて……

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60歳を過ぎると、
体のあちこちが痛くなってくる。
昔、老人たちが、
「体の節々が痛い」
「いつも体のどこかに痛みがある」
などと言うのを聞き、
〈そういうものか……〉
と漠然と考えていたが、
実際に自分が年老いてくると、
〈なるほど、こういうことだったのか……〉
と、納得させられる。
ただ、私の場合(それは誰しもであるのだが……)
老人になるのは初めてなので、(笑)
体のどこかが痛くなったときに、
これが病気なのか、
単なる老化現象なのか、
判断がつかなくて困ることが多い。

1年ほど前、
急に脇腹が痛くなった。
かつて尿管結石になったことがあり、
〈尿管結石かもしれない……〉
と思ったが、
配偶者の母親が67歳のときに膵臓がんで亡くなっており、
〈もしかして、がんかも……〉
と思ったりした。
かかりつけの小さな病院で診てもらうと、
特に悪いところはないと言う。
「心配なら、大きな病院で精密検査をしてもらったら?」
と言われ、
心配だったので、
大きな病院で診てもらった。
CT検査までしてもらったが、
ここでも「特に悪いところはない」と言われた。
「でも何故痛いのでしょう?」
と訊くと、
「背骨が少しゆがんでいるので、もしかしたら、そのゆがみが原因かもしれない」
と医師は答えたのだった。

半信半疑で病院を後にし、
帰宅して、ネット検索し、
背骨を矯正する体操をやってみることにした。
これを数日続けてみると、
あ~ら不思議、脇腹の痛みがなくなってしまったのだ。
以来、体操は、私にとって欠かせないものになっている。
腰痛、膝痛、肩痛、脇腹痛など、
痛むたびに、その痛みに効果のある体操をしてきた。
そして、ふと気づくと、
それらは、あのラジオ体操の動きにすべて含まれていることに気がついた。
小学生の頃は、嫌々していたラジオ体操であったが、
年老いてやってみると、実に身体が心地よいのだ。

年老いてくると、常に体を動かしていなければならない。
動かしていないと、すぐに錆付いたようになって動かなくなるし、
無理に動かそうとすると痛みが走る。
……そう実感している今日この頃なので、
タイトルがそのものズバリの映画『体操しようよ』が公開されることを知り、
〈見てみたい!〉
と思った。
主演は、草刈正雄。
私の好きな、木村文乃や和久井映見も出演しているという。
ワクワクしながら、映画館へ向かったのだった。



妻に先立たれて18年、
娘と二人三脚で家庭を営んできたつもりの佐野道太郎(草刈正雄)だったが、


定年退職後、
娘・弓子(木村文乃)から突然、
佐野家の主夫になるように言い渡される。


加えて、娘に結婚を考えている恋人がいることを知り、ショックを受ける。


自由な時間を持て余すため、
ひょんなことから地元のラジオ体操に通うことになった道太郎は、
体操会の会長・神田義彦(きたろう)、


副会長・木島正幸(徳井優)、


体操会のマドンナ・藤澤のぞみ(和久井映見)、


子どもたち、
ご近所さんなど、
さまざまな世代の人々と関わりを通じ、
それまで知らなかった世界を知っていくのだった……



映画のタイトルが『体操しようよ』なので、
体操の重要性を啓蒙する映画かと思いきや、
定年退職を迎えたシングルファーザーの主人公が、
ラジオ体操を通じた仲間作りや、家庭での主夫業に奮闘する姿を描く、
ハートフルコメディであった。


第二の人生に奮闘するシングルファーザーを草刈正雄が演じているのだが、
最初、
同じ定年退職映画『終わった人』の舘ひろしと同じく、
サラリーマンとは最も無縁そうな草刈正雄は、
この映画ではミスキャストなのではないかと思った。
無遅刻・無欠勤の地味なサラリーマンには見えなかったからだ。
最初は違和感ありありであったが、
退職後に、無精髭を生やし、朝から酒を呑んで“ぐーたら”している姿を見て、
〈おっ!〉
と思った。


大きな体を猫背気味に丸め、自分の姿を小さく見せようとしていたし、
体操会に参加するようになると、
会社人間だった頃と同じく、体操のマニュアルを作って参加者に嫌がられるなど、
佐野道太郎という人物のキャラ作りが秀逸であった。



佐野道太郎の娘・弓子を演じた木村文乃。


パン屋で働きつつ、亡くなった母の代わりに佐野家の主婦の役割を果たしている娘の役であったが、
道太郎の定年退職を機に、
〈これから私は自分の人生を歩む〉
と決め、
「父さんは主夫になって、自分のことは自分でやって」
と、佐野家からの独立を宣言をする。


私は至極当然な宣言と思ったが、
『キネマ旬報』(2018年12月上旬号)を読んでいたら、
私より5歳も若いまだ50代の映画評論家U氏が、
「若い人の目線で物語が作られ過ぎている」とした上で、

私のような老人にはチクチク痛いシチュエーション多し。そんなに年寄りいじめて楽しいか、と若者連中に問いたい。そもそも突然「主夫をやれ」と言われても無理に決まってるでしょ。娘さんの態度に怒りがこみ上げる。

と書いていたのには、思わず笑ってしまった。
娘の弓子はもう30歳なのだ。
いつまで主婦をやらせるのか……って話なのに、
「そもそも突然「主夫をやれ」と言われても無理に決まってるでしょ。娘さんの態度に怒りがこみ上げる」
とは、このU氏は頭が固過ぎないか?
まあ、それはともかくとして、
弓子は道太郎と敵対する役柄なので、
映画では笑顔が少なく、それだけが残念であったが、
今年(2018年)は、
『伊藤くん A to E』(2018年1月12日公開)
『羊の木』(2018年2月3日公開)
に次いで、3本の映画で彼女を見ることができて、私としては幸せだった。



体操会のマドンナ・藤澤のぞみを演じた和久井映見。
腕に火傷の痕があり、暗い過去がある女性の役であったが、
体操会の仲間にはその素振りも見せず、
何事にも健気に取り組んでいる姿には心打たれた。
和久井映見については、
NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年4月3日~9月30日)での好演が記憶に新しいが、
アラフィフの仲間入りをした今でもその美しさは健在で、
木村文乃と共に本作でも華となって作品を盛り上げていた。



監督の菊地健雄は、
1978年1月27日生まれの40歳。(2018年12月現在)
『ヘヴンズ ストーリー』『岸辺の旅』『舟を編む』などの傑作で助監督を務めた後、
2015年、『ディアーディアー』で長編映画監督デビューし、
その後も、『ハローグッバイ』(2016年)、『望郷』(2017年)など、
秀作を連発している。
まだ若い監督であるが、単なる定年映画にすることなく、
家族や地域の仲間などの交流を中心に、
穏やかなタッチでまとめ上げた手腕は評価に値する。



定年を迎えつつある年代の男性や、
定年を迎えつつある父親を持つ女性はもちろんのこと、
家族という普遍的なテーマを扱っているので、
あらゆる世代に見てもらいたい佳作『体操しようよ』。
映画館で、ぜひぜひ。


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