『カラマーゾフの兄弟』読了計画の第6回は、
第1部、第2編「場違いな会合」の、

第7節、第8節。
長老の庵室での会合は終わり、フョードルは帰り、
他の者は修道院長との食事会に臨む。

第1部、第2編、第7節「出世志向の神学生」

【要約】
アリョーシャは、長老を寝室に導き、ベッドに腰掛けさせた。長老はアリョーシャに「食事会に行くように」と言った後、「今後、ここはおまえがいる場所ではないということを知っておきなさい。いいかね、このことをしっかり覚えておくのだよ。神さまがわたしをお召しになったら、すぐにも修道院をでるのだ」と告げる。アリョーシャは、修道院長との食事会の始まりに間に合うように(むろん食事の給仕をするために)修道院へ向かった。最初の曲がり道で彼は神学生のラキーチンに出会った。ラキーチンはアリョーシャを「待っていた」と言い、ゾシマ長老がドミートリーに頭を地面にまでつけてお辞儀した理由を訊いてきた。アリョーシャが「知らない」と答えると、ラキーチンは、「長老がカラマーゾフ家に犯罪(人殺し)の臭いを嗅ぎつけたからではないか」と推理し、ドミートリーについて「ああして、ものすごく高潔でも女好きな男には、越えてはいけない一線があるんだよ。もしもそうでなきゃ、あの人は親父をぐさりとやりかねない」と語る。そして、「きみたちカラマーゾフ一家の問題というのは、女好き、金儲け、神がかり、この三つの根っこがある」と断言する。ドミートリーは、自分のフィアンセのカテリーナを棄てて公然とグルーシェニカに乗り換えた。次男のイワンは、長男ドミートリーのフィアンセを横取りしようと画策している。ドミートリーはグルーシェニカのもとに行きたい一心で、自分からフィアンセをイワンに譲る気でいる。だがドミートリーの行く手には父フョードルが立ちはだかった。急にグルーシェニカに狂ってしまったからだ。グルーシェニカは今のところ、適当に答えをはぐらかし、二人をからかいながら、どっちが得か見定めている最中だという。二人が食事会の場所に着くと、食堂から皆が飛び出してくるのが見えた。なぜか父フョードルがいる。イワンもいる。イシドール神父が叫んでいる。ミウーソフも馬車で帰っていく。地主のマクシーモフまで走っていく。あそこで大醜態(スキャンダル)がもちあがったのだ。
第1部、第2編「場違いな会合」での難題とは、主に「財産分与」に関することで、
長老を含めた会合でなんとか解決の糸口を見つけようというのが、
フョードルの思惑であった。
だが、父フョードルと長男ドミートリーが、
グルーシェニカという女性をめぐって対立関係にあったことから、問題は泥沼化する。
ドミートリーが棄てようとしているフィアンセのカテリーナには、
次男のイワンが思いを寄せている。
こういったカラマーゾフ家特有の「女好き」の系譜も、問題を複雑化させている。
第1部、第2編、第8節「大醜態」

【要約】
ミウーソフが修道院長の部屋に入ろうとしたとき、ミウーソフの心に微妙な心境の変化が起きていた。腹を立てている自分が恥ずかしいような心持ちになったのだ。フョードルなど敬意を払うには値しない男なので、長老の庵室であんな風に冷静さを失い、自分を見失うべきではなかったのだ。修道院を相手取った訴訟も一切取り下げようと心に決めていた。ミウーソフは、「神父さま、ご招待にあずかったフョードル・カラマーゾフは事情により、やむを得ずこの食事会を辞退されました」とお詫びを言った。修道院長は聖像の前に立つと、声に出してお祈りを始めた。と、その時だった。帰った筈のフョードルが突然現れて、道化芝居を始めたのだ。フョードルは、いったんは帰ろうとしたものの、長老のもとで自分が放った言葉が思い出され、「おれはだれよりも卑劣だ。だれもがおれを道化あつかいしている。それなら『よし、じっさいに道化を演じてみせようじゃないか、あんたらの意見なんて恐くない、あんたらだってみんな、ひとりのこらずこのおれより卑劣なんだから!』」と、修道院に引き返したのだった。フョードルはミウーソフとカルガーノフに暴言を浴びせ、適当に思い出した古い噂やデマをたよりに、ただでまかせに話を続け、ばか話を終えると、今度は、自分は決して戯言を言ったわけではないことを証明したくなり、すでに並べ立てた戯言に、さらに愚劣な戯言を上塗りした。修道院長は、キリストが言った言葉を引用し、慇懃に「客人であるあなたに、謹んでお礼を申し上げます」とフョードルに深々とお辞儀をした。すると、フョードルは、「ちぇ、これだもんな! 偽善だね。陳腐なせりふさ! 陳腐なせりふに、陳腐なジェスチャー! 陳腐なうそに、お定まりの陳腐なお辞儀! そういうお辞儀なら、われわれだって知ってますよ。『唇にキスを、胸元に剣を』シラーの『群盗』ですがね。わたしは、神父さん、ごまかしは大嫌い、真実がほしいんです!」と、院長にまでからみだした。ミウーソフは部屋から飛び出し、カルガーノフもあとに続いた。フョードルは、「では神父さん、わたしも出て行きます。もう二度と参りません。千ルーブル寄進したことがあったが、これからはびた一文、わたしからは受け取れませんよ。息子のアレクセイは、父親の権限で今日から永久に引き取らせてもらいますよ!」と擦れ台詞を吐き、出て行った。フョードルとイワンが馬車に乗り込むと、フォン・ゾーンとこけにされた地主のマクシーモフが駆けつけ、ステップに自分の足を乗せ、車体にしがみつき、「わたしも連れていってください」と叫んで馬車の中に飛び込もうとした。フョードルはそれを許可したが、イワンは何も言わずにマクシーモフを突き飛ばしたのだった。
ミウーソフは、フョードルの最初の妻(ドミートリーの母アデライーダ)の従兄で、
裕福な地主である。
1840~50年代的な自由主義者で、自由思想家にして、無神論者。
ミウーソフと修道院との間では、
前々から領地の境界線、森林伐採権、川での漁獲の問題などをめぐって訴訟が絶えなかった。
これらの争いをなんとか円満に解決できないものかと、
直に修道院長と会って話したいという口実で、
長老の庵室で開かれるカラマーゾフ家の家族会議を利用したのであるが、
フョードルのあまりにもふざけた道化ぶりに怒りが爆発し、
フョードル対ミウーソフの様相を呈するようになってしまう。
フョードルが帰り、やっと静かに修道院長の食事会に臨めると思い、
修道院を相手取った訴訟も一切取り下げようと心に決めていたのに、
戻ってきたトリックスター、フョードルの大醜態で、すべて崩れ去ってしまう。
このようにして、第1部、第2編「場違いな会合」は終わり、
第1部、第3編「女好きな男ども」へと移っていく。
