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映画『ファーストラヴ』 ……北川景子と芳根京子の対峙シーンが見事な秀作……

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本作『ファーストラヴ』(2021年2月11日公開)は、
当初、私の鑑賞予定リストには入っていなかった。
こう言っては失礼だが、
監督(堤幸彦)にも、
主演女優(北川景子)にも、
共演者(中村倫也、芳根京子、板尾創路、石田法嗣、清原翔、木村佳乃、窪塚洋介)にも、
それほど魅力を感じなかったからだ。
堤幸彦監督作品は、
話題作は多いものの、
私にとっては「可もなく不可もなし」という映画が多く、(コラコラ)
〈堤幸彦監督作品だから……〉
と、見に行くことはこれまでなかった。
主演の北川景子にしても、
国宝級の美しさであることは認めるが、私好みの顔ではなく、
演技も「可もなく不可もなし」という印象で、(コラコラ)
〈北川景子の主演映画だから……〉
と、見に行くこともこれまでなかった。
映画を見るという行為は、
〈この映画は絶対に見たい!〉
と思わせる強力な“何か”が必要である。
私にとってのその“何か”が『ファーストラヴ』には残念ながら無かった。
では、
それほどまでに魅力を感じなかった『ファーストラヴ』を、
私がなぜ見に行ったのかというと、
他に見たい作品が無かったからである。(コラコラ)
今年(2021年)になってからの新型コロナウィルスの更なる感染拡大により、
公開予定だった新作映画が次々に公開延期になり、
見たい映画がなくなってしまったのだ。
結果、新作映画に飢えていた私は、
『ファーストラヴ』を見に行くことを決意する。
考えてみれば、堤幸彦監督作品にも、
『明日の記憶』(2006年)、『悼む人』(2015年)などの印象深い作品があったではないか……
北川景子の出演作も、「私好みの顔ではない」と言いつつ、
『花のあと』(2010年)、『ジャッジ!』(2014年)、『の・ようなもの のようなもの』(2016年)、『君の膵臓をたべたい』(2017年)、『探偵はBARにいる3』(2017年)、『パンク侍、斬られて候』(2018年)、『響 -HIBIKI-』(2018年)、『さんかく窓の外側は夜』(2021年)など、けっこう見ているし、レビューも書いている。
なので、
〈案外、良い作品になっているのかもしれない……〉
と、思い直し、映画館へ向かったのだった。



川沿いを包丁を持って歩く女子大生が逮捕された。


殺されたのは彼女の父親。
「動機はそちらで見つけてください」
容疑者・聖山環菜(芳根京子)の挑発的な言葉が世間を騒がせていた。


事件を取材する公認心理師・真壁由紀(北川景子)は、


夫・我聞(窪塚洋介)の弟で弁護士の庵野迦葉(中村倫也)とともに、


彼女の本当の動機を探るため面会を重ねる。


二転三転する環菜の供述に翻弄され、真実が歪められる中、
由紀はどこか過去の自分と似た「何か」を感じ始めていた。
そして、由紀の過去を知る迦葉の存在と、


環菜の過去に触れたことをきっかけに、
由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになるのだが……



〈案外、良い作品になっているのかもしれない……〉
と思いつつも、
ガッカリするのはイヤだったので、
あまり過度な期待はしないようにして軽い気持ちで見ていたのだが、
かなり良質な作品だったので、驚くと同時に、
〈見て良かった~〉
と素直に思ったことであった。
とにかく、北川景子と芳根京子の演技に魅了された。
〈前からこんなに演技がウマかったっけ?〉
と、失礼ながら思った。
二人の演技に魅入られているうちに、物語は進行し、
いつの間にか映画を楽しんでいる自分がいた。
そして、この映画のストーリーを知っていることに気づいた。(オイオイ)
原作は、
第159回直木賞を受賞した島本理生の同名サスペンス小説なのだが、


この原作小説は読んでいないと思っていたのだが、
物語が進行するにしたがって、なんと、既読であったことを思い出した。(爆)
わずか2~3年前のことなのに、すっかり忘れていた。
本当に情けない。
小説の「ファーストラヴ」はブックレビューを書こうと思いつつ、結局書かなかったので、
早々と忘れてしまっていたのだ。
映画も本も、レビューを書かないと忘れるのが早い。
“書く”という行為は、
忘れずに記憶しておくためにはとても重要なことなんだと、
あらためて再認識させられた。

映画を見ているうちに、読書したときの感想を思い出し、
原作と映画の違いにも気づかされるようになった。
原作の由紀に比べて、
北川景子が演じた由紀には、
原作ではあまり感じられなかった(心を閉ざしていた環菜を)包み込むような優しさが感じられた。
そう感じたのは、やはり、北川景子の繊細な演技があったからであろう。


原作の由紀のキャラクターを大事にしたいという思いはもちろん強くありましたが、私が原作や脚本を読んだ時に最初に感じたのは、作品全体のテーマは重たいにも関わらず、とても「清々しい」という読後感だったんです。何かが浄化されたような清々しさを感じて、温かい気持ちにさえなれた。

そのためには環菜が一度すべての感情を吐露できる相手として由紀がいなくてはならないと思ったので、由紀があまりにも情緒不安定だと環菜が戸惑ってしまうのかなと堤幸彦監督とも話し合いながら(映画の)由紀を作っていきました。(「CREA」島本理生と北川景子の対談より)

と、北川景子は語っていたが、
セリフのあるシーンばかりではなく、セリフのないシーンでも、
目の動きや、ちょっとした仕草に至るまで、神経が行き届いていたのが感じられたし、
その由紀を演じる北川景子を見て、
環菜(芳根京子)がやがては自分の過去やトラウマを打ち明け、
由紀に気持ちを委ねるであろうことまで予測することができた。
これはひとえに北川景子の演技力によるもので、
ここまで繊細に演じられる女優とは思っていなかった自分の不明を恥じたことであった。



北川景子と同じくらい見事な演技をしていたのが、聖山環菜を演じた芳根京子。


ネタバレになるので、詳しくは書けないが、
環菜はかなり難しい家庭環境で育った女性で、
環菜という女性を理解するのは困難であるし、
環菜という女性を演じるのはもっと難しいと思われた。
生半可な演技力では太刀打ちできないし、
芳根京子は相当な覚悟で挑んだものと思われる。

いくら考えても、環菜のことが本当に分からなかったです。もし環菜が親からの愛情をもらっていたらどういう子になっていたんだろうなとも考えたのですが、それも分からなくて、演じていてもやっぱり彼女の事が分からなくて。でも、その「分からない」にみんなが翻弄されていくわけだから、その感情って多分正しいんだろうなと思いました。環菜がどういう存在なのかによってこの作品の色が決まると思っていましたし、堤(幸彦)監督とは「環菜はちょっとした違和感とゾクッとした魅力のある子に」というお話をずっとしていたので、何度も相談しながら道をしっかり作って、役に臨みました。(「好書好日」インタビューより)

芳根京子は、更に、

この役が自分に来たということは、少なくとも何人かの人が、私が環菜をできると思ってくれたからだと思って、それが救いでしたし「やれる、やれない」は置いておいて、やらないという選択肢がなかったです。もちろん環菜を演じることは辛いだろうなと想像はしていたし、演じてみたら想像以上に辛くて。でも辛いと思うのは、それほど心が動かされたからなんですよね。(同上)

と語っていたが、
役柄としての環菜はメンタルがかなり壊れかけている女性なので、
芳根京子は私生活に影響が出るほど引きずってしまったとか。
感情が高まると涙が出てくるし、
うれしくても悲しくても悔しくても怒りでも涙が出てしまい、
この映画の撮影中は、環菜のことを考えるだけで涙が出てくるという状態がしばらく続いたのだそうだ。
それほど役に入り込んでいたからこそ、
観客にもそれが伝わったのだと思うし、
感動させられる演技になったのだと思う。
今年(2021年)はまだ始まったばかりであるが、
年末のいろんな映画賞で、
最優秀助演女優賞の候補にリストアップされるのは間違いないであろう。



芳根京子の素晴らしい演技を受けての北川景子の演技も見事で、
二人の“演技合戦”とでも呼びたくなるようなアクリル板越しの対峙シーンは、
その相乗効果で作品の質が高められているし、
単なる話題小説の映画化に終わらない感動作になっている。



真壁由紀(北川景子)、


聖山環菜(芳根京子)の二人に限らず、


由紀の夫・我聞(窪塚洋介)も、


我聞の弟で弁護士の庵野迦葉(中村倫也)も、


環菜の母・聖山昭菜(木村佳乃)も、


環菜の父・聖山那雄人(板尾創路)も、


由紀の母・真壁早苗(高岡早紀)も、


環菜の初恋の人・小泉裕二(石田法嗣)も、


それぞれに辛い経験や、人に言えない過去があり、
難しい役であったと思うが、
北川景子と芳根京子の演技に引きずられるように、
誰もが素晴らしい演技をしていた。



そして、堤幸彦監督も、
長回しを多用し、それぞれの“心の背景”を多面的・重層的に描いている。
数多い堤幸彦監督作品の中でも、
成功したと言える一作になっているのではないかと思われる。



“女性の心の闇”をテーマにした本作は、
これまであまり語られることのなかった様々な事象に触れており、
男性の私としては、考えさせられる部分が多かった。


セクハラ、パワハラ、いじめ、虐待などによって“心の傷”を負った人は多く、
それを誰にも言わずに、自分の中に押し込めたり我慢したりして、
自分で自分に折り合いをつけて生活している人が大部分なのではないかと思われる。
そういう人たちの存在に気づくこと、気にかけることの大切さを、
私はこの映画で学んだような気がする。



「他に見たい作品が無かったから」
という失礼な理由で鑑賞した本作『ファーストラヴ』であったが、
北川景子と芳根京子の演技のぶつかり合いが見事な秀作であったし、
〈映画を見ないであれこれ言うのは間違いだ!〉
と、あらためて自分を戒めたことであった。

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