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2018年の第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品である。
監督は、
ポーランド映画で初のアカデミー外国語映画賞に輝いた『イーダ』のパベウ・パブリコフス。

冷戦下の1950年代を舞台に、
東側と西側の間で揺れ動き、時代に翻弄される恋人たちの姿を描き出したラブストーリー。
予告編を見て、
その美しいモノクロ映像と音楽に魅せられた。
日本では(2019年)6月28日に公開された作品であるが、
佐賀では、2ヶ月遅れて、
8月下旬から9月上旬にかけて、シアターシエマで上映された。
で、先日、ようやく見ることができたのだった。

冷戦に揺れるポーランドで、
歌手を夢見るズーラと、

ピアニストのヴィクトルは、

音楽舞踊団の養成所で出会い、恋におちる。

だが、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、パリに亡命する。
夢をかなえて歌手になったズーラは、

公演活動で訪れたパリやユーゴスラビアでヴィクトルと再会。
幾度かのすれ違いを経て共に暮らし始める。
しかし、ある日突然ズーラはポーランドへ帰ってしまう。
あとを追うヴィクトルに、思いもかけぬ運命が待ち受けていた。

『ROMA ローマ』
『芳華』
『ラ・ラ・ランド』
の3作品を足して、3で割ったような作品であった。
『ROMA ローマ』とは、

美しいモノクロ映像という共通点の他に、
メキシコとポーランドという国の違いはあれど、
それぞれ、監督が生まれた国を舞台とし、
ややノスタルジックに歴史に翻弄すれる人々を描いており、
言葉を極力少なくして、映像で魅せるという共通点もある。
アカデミー賞外国語映画部門では、
『COLD WAR あの歌、2つの心』と『ROMA ローマ』はオスカーを争い、
『ROMA ローマ』の方が受賞したが、
〈もし『ROMA ローマ』がなければ『COLD WAR あの歌、2つの心』が受賞していたあろう……〉
とも評されていたので、
そういう意味でも、両作はなにかしら縁のある作品と言える。

『芳華』とは、

ポーランドと中国、
1950年代と1970年代、
社会主義と共産主義など、
設定の違いはあれど、
主人公の二人が出逢うのが、
『COLD WAR あの歌、2つの心』は音楽舞踊団の養成所で、
『芳華』は歌や踊りで兵士たちを慰労し鼓舞する歌劇団・文工団というのも似ているし、
激動の時代の波に翻弄されながらも、
若き頃から中年になるまでの美しくも切ない日々を描いており、
ラブストーリーという共通点もある。

『ラ・ラ・ランド』とは、

歌手志望(女優志望)の女とピアニストの男が主人公という設定が似ているし、
出逢いと再会というというパターン、
音楽で物語を繋いでいくというのも共通のものだ。
ただし、
『ラ・ラ・ランド』の方は映像がカラフルなのに対し、
『COLD WAR あの歌、2つの心』はモノクロ。
色彩においては対照的ではあるが、
『COLD WAR あの歌、2つの心』の方はモノクロ映像にもかかわらず、
シーンによってはカラー映像に見えてくる。
それほど想像力を刺激するということだ。

『COLD WAR あの歌、2つの心』において、
基調となる音楽は、ポーランドの民俗音楽「2つの心」という曲だ。
ポーランド語の原曲「Dwa Serduzka」、
フランス語による歌詞の直訳「Deux Coeurs」の2パターンがあり、
ポーランド語の原曲の方は、
ポーランドへの愛、主人公の二人の愛の象徴として奏でられる。
一方、フランス語によるjazzyな曲の方は、
空虚さを表現しており、“愛”のもうひとつの側面を表現しているように感じた。
どちらかというと、私は、こちらの曲に魅了された。
この「2つの心」という曲で印象的なのは、「オヨヨ」というフレーズ。
私の年代で「オヨヨ」と言えば、
小林信彦の『オヨヨ島の冒険』『合言葉はオヨヨ』などのオヨヨシリーズや、
桂三枝(現・6代桂文枝)の「オヨヨ」というギャグを思い出すが、(コラコラ)
ポーランド語でのオヨヨ(ojo joj)は“驚き”を表す話し言葉で、
フランス語におけるオララ(Oh là là)に近い表現らしい。
本作『COLD WAR あの歌、2つの心』におけるズーラとヴィクトルが、
激動の時代の波に翻弄されながらも、
出逢いと別れを繰り返しながら愛を紡いでいく様は、まさに奇跡であり、
思わず「オヨヨ(ojo joj)」と“驚き”の声を発したくなる物語なのである。

美しいモノクロ映像と音楽が素晴らしい傑作『COLD WAR あの歌、2つの心』。
映画館で、ぜひぜひ。