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映画『カツベン!』…成田凌、黒島結菜、井上真央の演技が秀逸な周防正行監督作品…

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周防正行監督の5年ぶりの新作である。


サイレント映画時代を舞台に、
一流活動弁士になることを夢見る青年を主人公にした、
コメディドラマだという。
周防正行監督作品は、
監督デビュー作『変態家族 兄貴の嫁さん』(1984年)を含め、
全作品見ているので、
新作『カツベン!』も、当然のごとく、
〈見たい!〉
と思った。
だが、心配事がひとつだけあった。
それは、自身が脚本を書いていないこと。
周防正行監督は、これまですべて、脚本も執筆してきた。
なのに、なぜ、今回に限って、他人に脚本を委ねたのか?
まあ、他人とは言っても、
『それでもボクはやってない』(2007年)
『終の信託』(2012年)
などで、周防正行監督作品で助監督を務め、
本作『カツベン!』でも監督補を兼任する片島章三ではあるのだが……

はたしてどんな作品になっているか?
ドキドキしながら映画館へ向かったのだった。



子供の頃に活動写真小屋で見た活動弁士に憧れていた染谷俊太郎(成田凌)は、


〈心を揺さぶる活弁で観客を魅了したい!〉
という夢を抱いていたが、
今では、ニセ弁士として、泥棒一味の片棒を担いでいた。
そんなインチキに嫌気がさした俊太郎は、一味から逃亡し、
小さな町の閑古鳥の鳴く映画館・靑木館に辿り着く。
隣町にあるライバル映画館・タチバナ館に人材も取られ、
客足もまばらな靑木館にいるのは、
人使いの荒い館主・青木富夫(竹中直人)と、


気の荒い富夫の妻・豊子(渡辺えり)、


傲慢で自信過剰な弁士・茂木貴之(高良健吾)、


酔っぱらってばかりの弁士・山岡秋声(永瀬正敏)、


気難しい職人気質な映写技師・浜本祐介(成河)など、


クセの強い人材ばかり。
雑用ばかりを任される毎日を送る俊太郎の前に、
幼なじみの初恋相手・栗原梅子(黒島結菜)、


タチバナ館の館主である橘重蔵(小日向文世)、


その娘の橘琴江(井上真央)、


大金を狙う泥棒・安田虎夫(音尾琢真)、


泥棒とニセ活動弁士を追う熱血刑事・木村忠義(竹野内豊)などが現れ、


俊太郎はさまざまな騒動に巻き込まれていく……



お洒落なコメディドラマというより、
(昔見た映画のような)ドタバタ喜劇に近く、
なのに(喜劇なのに)あまり笑えないという、
私にとっては、(喜劇としては)やや残念な映画であった。
ただ、それは、私の期待値が高かった所為で、
作品としては悪くはなかったように思う。



なによりも、俳優陣の演技が素晴らしかった。
真っ先に褒めなければならないのは、
やはり、主人公の染谷俊太郎を演じた成田凌であろう。


初主演作が『カツベン!』となった成田凌は、
オーディションに挑戦したときの意気込みを、次のように語る。

初主演映画というのは、一生に一度しかない。周防正行監督の映画で、初めての主演ができるというのは、すごく嬉しいこと。これをやったら、何かが変わるんじゃないか。そういう気分でオーディションを受けました。(『キネマ旬報』2019年12月下旬号)

主役の座を射止めた成田凌は、
撮影の4ヶ月前から活動弁士の稽古に取り掛かり、
活動弁士、声優、芸人でもある坂本頼光から猛特訓を受ける。
その甲斐あって、彼の活動弁士ぶりは、予想を上回る上手さだ。
成田凌のこれまでの出演作を見てきて、
クールで「言葉少な」な役を多く見てきたので、
これほどの量の言葉を操る彼を初めて見て、聴いて、驚嘆した。
正直、これほど巧く演じているとは思わなかった。



俊太郎の幼なじみで、駆け出しの女優・栗原梅子を演じた黒島結菜。


彼女もオーディションで選ばれたのだが、
選出理由を、周防正行監督は次のように語る。

彼女の戸惑い……女優って仕事がまだ信じきれていない、何となく居心地悪そうにしている雰囲気が梅子役にピッタリだったんです。(『キネマ旬報』2019年12月下旬号)

一方、選ばれた側の黒島結菜は、栗原梅子という役をどのように捉えていたのか?

脚本を読んでいちばんに思ったのは、純粋で一途だということ。でも、お母さんの仕事の都合で転々とした生活を送っているので、どこか人生を諦めているような悲しさもある。惨めな思いをしたこともあっただろうけど、いまをちゃんと生きている。すごく強い人という印象を受けました。あるシーンを撮った時、周防(正行)監督と、この後、梅子はどうなるのか?と話していて、私が「梅子は絶対に俊太郎を待っていると思います」と言ったら「君はピュアだね!」って(笑)。でも私はそれくらい、子供の頃の気持ちを大事にしている、純粋な子だと思っていました。(『キネマ旬報』2019年12月下旬号)

黒島結菜に対する私のイメージは、
“線の細い女優”という印象があったし、
役柄的にも、純粋な気持ちも持った女性は、
周防正行監督のみならず、
私自身も彼女がピッタリだと思っていた。
だが、実際にスクリーンで見た彼女は、少し違っていた。
人生を諦めているような悲しさも抱えてはいるが、
芯の部分では強いものを持っている、案外、度胸のある図太い女性に思えた。
因縁のある泥棒の安田(音尾琢真)に喉を傷めつけられた俊太郎が、
声がうまく出せなくなって、実力が発揮できないでいたとき、
機転を利かせた梅子は、俊太郎を救うべく、
女性の声を梅子が担当し、
俊太郎とかけ合うカツベンを進行させる。
このシーンは、物語としても面白いが、
まるでラブシーンのようで、美しい。



タチバナ館の館主である橘重蔵(小日向文世)の娘・橘琴江を演じた井上真央。
「鑑賞する映画を出演している女優で選ぶ」主義の私としては、
本作『カツベン!』においては、それは“井上真央”であった。
代表作に『八日目の蝉』(2011年)があるが、
『白ゆき姫殺人事件』(2014年)での演技も素晴らしかったし、
昨年(2018年)見た『焼肉ドラゴン』では濃厚なキスシーンがあり驚かされた。
これまでの彼女のイメージを一瞬にして覆された。
本作『カツベン!』でも、琴江から仕掛ける俊太郎(成田凌)とのキスシーンがあるし、
橘重蔵の娘としての高慢な言動や振る舞いも『焼肉ドラゴン』を彷彿とさせ、
一皮むけた井上真央を見ることができて嬉しかった。
再来年(2021年)公開予定の『大コメ騒動』(本木克英監督)で、
主演の松浦いと役を演じることになっており、
こちらも大いに期待したい。



成田凌、黒島結菜、井上真央の他では、
周防組の常連俳優たちが多く出演しており、楽しめる。
『Shall we ダンス?』(1996年)でダンスのパートナー同志であった竹中直人と渡辺えりが、
靑木館の館主とその妻を演じているのが可笑しい。


その他、同じ『Shall we ダンス?』にキャスティングされていた、
田口浩正や、


徳井優も、個性豊かな楽士として出演しているし、


草刈民代も、モノクロの無声映画『椿姫』のマルギュリットとして登場する。


アルマン(城田優)とのキスシーンもあり、草刈民代のファンの私としては、複雑な心境だ。(笑)


このモノクロの無声映画には、
『金色夜叉』のお宮として、『舞妓はレディ』(2014年)で主演した上白石萌音や、


本作のために作られた無声映画『南方のロマンス』のヒロインとして、
NHK朝ドラ『マッサン』で人気を博したシャーロット・ケイト・フォックスも出演していて、とても贅沢。
この無声映画のパートも大いに楽しめるのだ。


若い人たちは、この活動弁士の映画を見て、
「映画の創成期にはこんな人たちがいたのか!」
と驚くと思うが、
周防正行監督より年長の私としては、それほどの驚きはなく、
その内容については知っている事柄の方が多かった。
なので、題材については新鮮さがなく、イマイチ感があったのだが、
活動弁士というのは、
日本で脈々と受け継がれてきた「語り芸」の中のひとつであるという新たな認識を得たのは、
私にとっては大きな収穫であった。


今回改めてね、みのもんたさんの『プロ野球珍プレー・好プレー』や古舘伊知郎さんのプロレス実況を思い出したんですね。あれなんか現代のカツベンでしょ! もっと遡ると、音楽やリズムに乗った語り芸は子供の頃から好きでした。落語でも柳亭痴楽さんの綴方狂室『恋の山手線』が大好きだった。そもそも日本人って、琵琶法師の存在が重要な『平家物語』の大昔から、語りでストーリーを味わっていたじゃないですか。それが浄瑠璃につながり、浄瑠璃が色々な流派を生んで、義太夫節が人形浄瑠璃を語った。能に謡があり、歌舞伎に義太夫狂言がある。落語、講談、浪曲、紙芝居も「物語る」芸能ですよね。絵をめくりながら語るなんてまさにカツベンだし。もっと言えば、今日の声優文化にもつながりを感じます。(『キネマ旬報』2019年12月下旬号)

とは、周防正行監督の弁。


映画の最後に、
「日本には真の意味でのサイレント映画はなかった。なぜならカツベンがあったから……」
というような意味の字幕が出るが、
〈なるほど!〉
と思わされたし、
カツベンというのは、日本独特の文化であったことを再認識させられた。
そういう意味で、「見て良かった」作品であった。
でも、
やはり、周防正行監督による脚本の、
周防正行監督(純度100%)の映画を見たかったという思いもある。
次作に期待したい。

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